効率的にダイエットするためには、医療機関で処方される「痩せ薬」の使用も一つの手段です。しかし、痩せ薬はどのような仕組みなのか、効果は本当にあるのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。痩せ薬にはさまざまな種類があり、効果や使用方法も異なるため、その方に適したものを使用することが大切です。
この記事では痩せ薬の効果や使用時の注意点、サプリとの違いについて紹介します。痩せ薬がどのような薬なのかを理解することで、ダイエット方法の選択肢を広げるきっかけとなるでしょう。
ダイエット効果のある痩せ薬とは?
痩せ薬とは、ダイエット効果があるとされている薬で、医療機関で処方されています。痩せ薬といっても食欲を抑制するものや、糖や脂肪の排出を促すものなど、その種類は一つだけではありません。これらの痩せ薬は、店頭や通販で気軽に購入できる医薬部外品やサプリよりも高いダイエット効果が期待できるとされています。
医師のサポートを受けながら痩せ薬を使用するダイエットを「メディカルダイエット(医療ダイエット)」と呼ぶこともあります。
医療機関で処方される痩せ薬の種類
医療機関で処方される痩せ薬にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が大きく異なります。ここでは代表的な痩せ薬の種類について詳しく解説します。
GLP-1受容体作動薬
GLP-1受容体作動薬とは、「GLP-1」の働きをサポートする薬です。インスリンの分泌を促進し血糖値を下げることから糖尿病に用いられる薬ですが、以下のような作用もあるためダイエットに効果があるといわれています。
- 脳に働きかけ食欲をおさえる
- 胃の働きをゆるやかにしてゆっくり消化させる
これらの働きによって、過食や急激な血糖値上昇による脂肪の溜め込みの防止が期待できます。
GLP-1受容体作動薬には内服タイプと注射タイプがあり、以下のような種類があります。
薬剤製品名 | 使用方法 |
リベルサス | 内服タイプ |
オゼンピック | 注射タイプ |
ビクトーザ | 注射タイプ |
サクセンダ | 注射タイプ |
マンジャロ | 注射タイプ |
GLP-1受容体作動薬は、普段から食べ過ぎてしまう方におすすめです。
SGLT2阻害薬(糖質吸収抑制剤)
SGLT2阻害薬も、糖尿病の治療で使用されています。糖の再吸収をおさえて尿とともに体外に排出させる薬です。通常、血中の糖は腎臓によって原尿(尿のもと)に排泄された後、再び取り込まれて血液中に戻ります。この働きは、腎臓にあるタンパク質である「SGLT2」によっておこなわれています。
SGLT2阻害薬は、このSGLT2の働きをおさえて、糖を尿と一緒に排出させる作用があるのです。糖の再取り込みを防ぐことで脂肪に合成される糖を減少できるため、ダイエット効果につながります。
SGLT2阻害薬には以下のような種類があります。
- ルセフィ
- フォシーガ
- カナグル
- スーグラ
- ジャディアンス
SGLT2阻害薬は炭水化物や甘いものなど、糖のもととなる食べ物をよく食べる方におすすめです。ただし、GLP-1受容体作動薬のような食欲をおさえる働きはないため、食事量を制限したいと考えている方には向いていない側面があります。
膵リパーゼ阻害薬
膵リパーゼ阻害薬とは、「膵リパーゼ」と呼ばれる酵素の働きを抑制するための薬です。膵リパーゼには、脂肪を分解して体内への吸収をスムーズにする働きがあるとされています。膵リパーゼ阻害薬によって膵リパーゼの働きを抑制することで、脂肪の分解をおさえて体内への吸収を防ぎます。
体内に吸収されなかった脂肪は便と一緒に体外へ排出されるため、カロリーコントロールが可能です。ただし、すでに体内に蓄積されている脂肪には効果がない点には注意しましょう。
膵リパーゼ阻害薬のおもな種類は以下の通りです。
- ゼニカル
- オベリット
- オルリガル
- セチリスタット
膵リパーゼ阻害薬は、揚げ物をはじめとした油脂分を多く含む食べ物をよく食べる方におすすめです。
ビグアナイド薬
ビグアナイド薬は、肝臓での糖の生成を抑制したりインスリンの働きを高めたりすることによって血糖値を下げる薬です。糖尿病の治療で使用されています。
血糖値を下げる要因としてビグアナイド薬には消化管からの糖の吸収をおさえるという働きもあり、体重の減少・食欲の抑制の作用があることが知られています。インスリン分泌は増幅しないことから、単独の使用であれば低血糖のリスクが少ないのも大きな特徴です。低血糖とは、血糖値が低くなり過ぎることで手の震えや発汗、頭痛などの症状が表れる状態です。
ビグアナイド薬には、以下のような種類の商品があります。
- メトグルコ
- グリコラン
- ジベトス
- メトホルミン
食欲抑制剤
食欲抑制剤とは、中枢神経に働きかけることで食欲をおさえて、ダイエットをサポートする薬です。食欲は、脳内の視床下部と呼ばれる部分で調節されており、胃の状況にあわせて「満腹」や「空腹」などのサインを送ります。この働きから、視床下部は「満腹中枢」「摂食中枢」とも呼ばれています。
食欲抑制剤を使用すると、視床下部に作用し、満腹中枢を刺激して食欲をおさえる効果があるのです。「サノレックス(マジンドール)」が代表的な食欲抑制剤です。サノレックスは保険適用薬品であるため信頼性は高いものの、依存症を引き起こす恐れがあるため長期的な使用には向いていません。
漢方薬
漢方薬は、生薬と呼ばれる天然由来の成分を組み合わせた東洋医学の薬です。これまで紹介した器官の働きに直接アプローチする医薬品とは異なり、漢方薬は体質改善による不調の解消が目的です。つまり漢方薬は、ほかの医薬品とは異なるアプローチ方法でダイエット効果を高める働きがあります。
ダイエットに使用される漢方薬として代表的なものは、「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」です。防風通聖散は複数の生薬の乾燥エキスを配合した顆粒剤で、肥満やむくみ、便秘に対して効果があるとされています。
痩せ薬を使用する際の注意点
痩せ薬はダイエット効果が期待できますが、気をつけなければいけないこともあります。ここでは、痩せ薬を使用するうえでの注意点をみていきましょう。
副作用に注意する
痩せ薬を使用することで、副作用が出る可能性がある点に注意しましょう。どのような副作用が出るかについては、痩せ薬の種類によって異なります。
先ほど紹介した痩せ薬にみられる副作用は、以下のようなものがあります。
種類 | 副作用 |
GLP-1受容体作動薬 | 下痢や便秘、嘔気、低血糖など |
SGLT2阻害薬 | 低血糖、尿路・性器感染、脱水症状など |
膵リパーゼ阻害薬(セチリスタット) | 脂肪便、下痢など |
ビグアナイド薬 | 吐き気、便秘、下痢など |
食欲抑制剤(サノレックス) | 依存症、口渇感、便秘、自律神経症状など |
漢方薬(防風通聖散) | 不眠、嘔吐、腹痛など |
薬の使用の継続で症状が軽くなるものもあれば、副作用が出たらすぐに受診が必要なケースもあります。痩せ薬を使用する際は、注意点について必ず医師に確認しておくことが大切です。
用法・用量を必ず守る
痩せ薬ごとに指定されている用法・用量は必ず守りましょう。用法・用量を守らないと、本来の薬の効果が発揮されなかったり、副作用が出やすくなったりする恐れがあります。たとえ薬の量を2倍増やしたとしても、ダイエット効果が2倍になるわけではありません。それぞれの痩せ薬と個人の状態にあった用法・用量があるので、ルールに従って安全に使用しましょう。
痩せ薬と市販のサプリとの違い
世間では、ダイエットに効果があるとされているサプリが販売されています。このサプリと痩せ薬には、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは市販で購入できるサプリの特徴と、痩せ薬との違いについて解説します。
サプリには直接的なダイエット効果はない
結論からいうと、サプリには痩せ薬のような直接的なダイエット効果はありません。
サプリによるおもな効果は、以下の通りです。
- 不足しがちな栄養素の補給
- 脂肪燃焼のサポート
- 糖や脂質の吸収の抑制
サプリは間接的にダイエットをサポートするものです。痩せ薬のように身体の器官機能に直接働きかけるものではなく、高い効果は期待できない点をおさえておきましょう。サプリを使用してダイエットするには、食事管理や運動などを中心におこなうことが重要です。
痩せ薬とサプリの特徴の違い
痩せ薬とサプリの特徴について、メリット・デメリットごとに分けてみていきましょう。
【痩せ薬のメリット】
- 高いダイエット効果が期待できる
- 食事制限が容易になる傾向があり、低ストレスで継続できる
【痩せ薬のデメリット】
- 副作用に注意する必要がある
- 医療機関で受診して処方してもらう必要があるので、手間がかかる
- ほとんどが保険適用ではなく、費用がかさみやすい
【サプリのメリット】
- 痩せ薬と比べると安価で購入できる
- 通販や薬局で気軽に購入できる
- 副作用が少ない
【サプリのデメリット】
- 直接的なダイエット効果はない
- 食事管理や運動などを中心に継続しておこなう必要がある
それぞれの違いについてよく把握したうえで、自分に向いているものを選択してダイエットを進めていきましょう。
痩せ薬とサプリの併用には注意が必要
痩せ薬とサプリを併用すると、薬の効果が弱くなる、または強くなりすぎる可能性があるので注意しましょう。健康によいとされているサプリでも、使い方によっては悪影響をおよぼす恐れがあります。
併用を考えている場合は、医療機関で医師に相談し、安全かどうかを確認することが大切です。併用ができないときは、痩せ薬でダイエットを進めてから、その後の体型維持の段階でサプリに切り替える、といった工夫をする必要があります。
痩せ薬は市販で購入できる?
痩せ薬は基本的に医療機関で医師から処方されるものなので、市販はされていません。しかし、海外の痩せ薬がインターネットなどを介して流通しているケースもあるのが現状です。こうしたルートで入手できる痩せ薬は、偽物であったり衛生面や品質上の問題があるものも販売されている可能性があるため、購入はおすすめできません。
実際に、個人輸入した痩せ薬の使用によって多くの健康被害が発生しており、なかには死亡したケースもあります。痩せ薬を購入したいなら、必ず医療機関で受診して、医師に処方されたものだけにしておきましょう。「気軽に安く買いたい」からといって、通販などで痩せ薬を購入しないように気をつけてください。
痩せ薬に関するQ&A
ここでは、痩せ薬に関してよくある質問についてみていきましょう。
どのくらい痩せ薬の使用を続ければ効果が出る?
痩せ薬の種類によっても異なりますが、使用を続けておおよそ3カ月、早くて2〜3週間で効果が出るといわれています。痩せ薬は即効性のあるものではないため、効果が出るまで継続的に使用することが大切です。
また、痩せたからといってすぐに使用をやめると、リバウンドする恐れがある点にも注意しましょう。リバウンド防止のためにはすぐに服用をやめず、医師の指示に従って徐々に薬を減らす、弱い薬にするなどしましょう。
痩せ薬を使用できないケースはある?
妊娠中や授乳中は、胎児へ悪影響が出る可能性があるため、痩せ薬の使用はできません。持病・アレルギーがある方も、その種類によっては副作用が出やすくなる恐れがあるので、服用できないケースがあります。医療機関で受診した際に、自身の状態について伝えたうえで、痩せ薬を処方できるか判断してもらいましょう。
保険は適用される?
ダイエットが目的の場合、ほとんどの痩せ薬は保険適用されません。ただし、食欲抑制剤である「サノレックス(マジンドール)」や漢方薬の「防風通聖散」は保険適用となります。サノレックスには、BMIが35以上、投与期間は3カ月間という条件があります。
【BMIの計算方法】
BMI=体重(kg)/身長(m)の2乗
痩せ薬の使用中は普段通り食事してもよい?
痩せ薬の使用中は普段通り食事をしてもかまいませんが、カロリーの高い食事を摂り過ぎると、ダイエット効果が出にくくなります。より効果の高いダイエットを目指すためには、痩せ薬の使用中も食事管理や適度な運動を心がけることが大切です。このような生活習慣を身につけておけば、ダイエット後のリバウンド防止にもつながるでしょう。
痩せ薬を使用する際は専門の医療機関で受診しよう
医療機関で処方される痩せ薬は、ダイエット効果が期待できます。痩せ薬にはさまざまな種類があるため、個人の状況にマッチした効果のあるものを選ぶことが大切です。また、使用前には副作用をはじめとした注意点についても把握しておく必要があります。
痩せ薬を使用したい方は、通販などで購入せずに、必ず医療機関で受診して処方してもらいましょう。
参考サイト・文献
・血糖値を下げる飲み薬|糖尿病情報センター
・低血糖|糖尿病情報センター
・GLP-1の多様な作用|糖尿病サイト novo nordisk
・GLP-1 受容体作動薬の基礎的・臨床的新知見「3.GLP-1 受容体作動薬の体重減少効果」上野 浩晶、中里 雅光|J-STAGE
・「IV.肥満の治療 4.食欲抑制薬」池田 義雄|J-STAGE
・学科紹介 食欲の調節について|東京薬科大学
・「肥満症の薬物療法」羽田 裕亮、山内 敏正、門脇 孝|日本内科学会雑誌第104巻第4号|J-STAGE
・ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用)|医薬品医療機器情報提供ホームページ
・薬価基準の一部改正について( 平成04年08月28日保険発第123号)|厚生労働省
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